医療法人豊仁会三井病院
埼玉県川越市連雀町19-3
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乳がんとは

乳がんとはどんな病気?

乳房には母乳を作る小葉という部分と、母乳を乳頭に運ぶ乳管から成る乳腺組織が張り巡らされています。
この乳腺組織に発生した悪性腫瘍が乳がんです。
乳腺組織に発生したがん細胞は、女性ホルモンの影響を受けながら増殖し、広がり、リンパ管や血管を介して他の部分にも転移していきます。
乳がんが直径1cmほどの大きさになるには、およそ5~8年かかります。

乳がんになりやすい人

乳がんの発生・増殖には、エストロゲンという女性ホルモンが重要な働きをしています。
乳がんの症例では、体内のエストロゲンレベルの影響が要因とされています。
エストロゲンレベルが高い人の他、経口避妊薬の使用や閉経後のホルモン補充療法などの体外ホルモンの要因も乳がんのリスクが高くなるという根拠であると考えられています。

生理・生殖要因としては

  1. 初経年齢が早い
  2. 閉経年齢が遅い
  3. 出産歴がない
  4. 初産年齢が遅い
  5. 授乳歴がないこと

などが要因とされて考えられています。また、閉経後の肥満も1つの要因です。

生活習慣要因としては、飲酒習慣は大きな要因です。
その他、一親等の乳がん家族歴、良性乳腺疾患の既往、マンモグラフィ上の高密度所見、電離放射線曝露も、乳がんの要因とされています。

乳がんの症状

乳房のしこり

乳がんは5mmぐらいから1cmぐらいの大きさになると、自分で注意深く触るとわかるしこりになります。
しかし、しこりがあるからといって全てが乳がんであるというわけではありません。

乳房のえくぼなど皮膚の変化

乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、えくぼのようなくぼみができたり、皮膚が赤くはれたりします。
乳房のしこりが明らかではなく、乳房表面の皮膚がオレンジの皮のように赤くなり、痛みや熱感を伴う場合、「炎症性乳がん」と呼びます。
炎症性乳がんがこのような外観を呈するのは、乳がん細胞が皮膚のリンパ管の中に詰まっているためであり、それだけ炎症性乳がんは全身的な転移をきたしやすい病態です。

乳房の近傍のリンパ節の腫れ

乳がんは乳房の近傍にあるリンパ節、すなわちわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)、胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)や鎖骨の上下のリンパ節(鎖骨上リンパ節、鎖骨下リンパ節)に転移をきたしやすく、これらのリンパ節を「領域リンパ節」と呼びます。
領域リンパ節が大きくなってくるとリンパ液の流れがせき止められて腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕のしびれをきたしたりすることがあります。

遠隔転移の症状

転移した臓器によって症状は違いますし、症状が全くないこともあります。
領域リンパ節以外のリンパ節が腫れている場合は、遠隔リンパ節転移といい、他臓器への転移と同様に扱われます。
腰、背中、肩の痛みなどが持続する場合は骨転移が疑われ、荷重がかかる部位にできた場合には骨折を起こす危険もあります。(病的骨折)
肺転移の場合は咳が出たり、息が苦しくなることがあります。
肝臓の転移は症状が出にくいですが、肝臓が大きくなると腹部が張ったり、食欲がなくなることもあり、痛みや黄疸が出ることもあります。

注意する症状

乳房にしこりがある。
乳房の皮膚にかゆみやタダレがある。
血性乳頭分泌がある。
乳房の皮膚にくぼみがある
乳房に痛みや張るような自覚がある。
※ 上記の症状がある方は乳腺センター担当医師にご相談ください。

良性のしこりと悪性のしこりの見分け方

良性は消しゴムのような硬さ、悪性は石のような硬さ。
良性は境界がはっきりしていてくりくりした感じで、悪性は境界があいまい。
良性は指で押すと逃げるが、悪性は指で押しても動かない。
※ 見分け方は参考です。少しでも違和感や上記の症状がある方は専門の医師の診断を受けた方がより確実です。

乳がんの診断方法

マンモグラフィー(X線撮影)

マンモグラフィーは乳房を装置に挟んで圧迫しX線撮影する検査です。触診では見つからないような小さながんが見つかることがあります。

エラストグラフィ超音波装置(乳腺エコー)

組織の硬さをカラーで表示するリアルタイム画像化技術の超音波装置の検査です。良性病変に比べてがん組織が”より硬い”ことを利用してがんを検出します。エラストグラフィを使用することで、超音波による乳がん検診の精度が大幅に向上することが、臨床研究により実証され始めました。

吸引式乳房組織生検

吸引力を利用して組織を切り取る方法で、一度に複数の組織を採取し調べます。局所麻酔が必要とされ刺した部分に血腫(血の塊)ができることがありますが、入院の必要はなくより正確な診断が可能です。

遠隔転移の検査

乳がんが転移しやすい遠隔臓器として肺、肝臓、骨、リンパ節などがあります。遠隔転移があるかどうかの診断のためには、胸部X線撮影、肝臓のCTや超音波検査などが行われます。

乳がんの診断方法

0期

乳がんが発生した乳腺の中にとどまっているもので、極めて早期の乳がんです。これを「非浸潤がん」といいます。

  • 乳房温存手術+放射線療法
  • 術後ホルモン療法

Ⅰ期

しこりの大きさが2cm(1円玉の大きさ)以下で、わきの下のリンパ節には転移していない、つまり乳房の外に拡がっていないと思われる段階です。

  • 乳房温存手術+放射線療法
  • 術後ホルモン療法

Ⅱ期

Ⅱa期とⅡb期に分けられます。
しこりの大きさによって術式を選択します。しこりが大きい場合には先に抗がん剤治療を行い、手術をその後に行う「術前化学療法」をとるケースもあります。

Ⅱa期

しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節への転移がある場合、またはしこりの大きさが2~5cmでわきの下のリンパ節への転移がない場合。

Ⅱb期

しこりの大きさが2~5cmでわきの下のリンパ節への転移がある場合。

Ⅲ期

「局所進行乳がん」と呼ばれ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅲc期に分けられます。
Ⅲb~Ⅲcのステージは原則として手術ができない乳がんです。薬物療法、放射線療法を行ってしこりが小さくなり、手術が可能になれば手術を行う場合もあります。

Ⅲa期

しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、しかもリンパ節がお互いがっちりと癒着していたり周辺の組織に固定している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節(内胸リンパ節)がはれている場合。 あるいはしこりの大きさが5cm以上でわきの下あるいは胸骨の内側のリンパ節への転移がある場合。

Ⅲb期

しこりの大きさやわきの下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁にがっちりと固定しているか、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態です。炎症性乳がんもこの病期に含まれます。

Ⅲc期

しこりの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある場合。あるいは鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある場合。

Ⅳ期

遠隔臓器に転移している場合です。乳がんの転移しやすい臓器は骨、肺、肝臓、脳などです。

  • 化学療法
  • ホルモン療法
  • 放射線療法

再発乳がん

乳房のしこりに対する初期治療を行った後、乳がんが再び出てくることを「再発」といいます。
通常は他の臓器に出てくること(「転移」と呼びます)を指し、IV期の乳がんとあわせて「転移性乳がん」と呼びます。
手術をした乳房の領域に出てくることは「局所・領域再発」と呼んで区別します。

乳がんの治療法

乳がんの治療には、大きく分けて3つあります。
1つ目は外科療法で手術を主体とした治療です。
2つ目は放射線療法で放射線をあてて治療します。
3つ目は薬物療法で抗がん剤、ホルモン剤などの薬剤を主体とした治療方法です。

一般的に患者さまの状態にあわせてそれぞれの治療方法を組み合わせて行ないます。

外科療法

乳房にできたがんを切除する治療方法です。
切除する範囲は乳房内のがん組織の大きさや広がりによって決まりますが、周りの正常組織も同時に切除します。
通常は乳がんの切除と同時にわきの下のリンパ節を含む脂肪組織も切除します。

乳がんの手術には次のような術式があります。

乳房部分切除術一般的に「乳房温存手術」と呼ばれる術式です。
病変の部位や広がりによって病巣の縁から1~2cm離れたところで乳腺を切除し癌病巣部を円状に切除する「円状部分切除術」と病巣部を囲んで扇状に切除する「扇状部分切除術」があります。
単純乳房切除術がんが認められた側の乳房全体を切除する術式です。
この場合、がんが皮膚や乳頭、乳輪に達していないことが条件となります。胸筋とリンパ節を温存します。
胸筋温存乳房切除術乳房とわきの下のリンパ節を切除する最も一般的な術式です。
場合によっては、胸の筋肉の一部分を切り離すこともあります。
胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)がんが認められた側の乳房全体と大胸筋、小胸筋とわきの下のリンパ節をすべて取り除く手術です。
現在では、胸の筋肉の広い範囲まで達しているときにのみ行なわれます。
センチネルリンパ節生検(リンパ節に対する手術)がん細胞がリンパ管の流れに乗って最初にたどり着くリンパ節のことで「見張り番リンパ節」と呼ばれています。
センチネルリンパ節の位置は手術前や手術中に乳房の皮下に色素やアイソトープを注射して目印をつけます。
目印をつけたリンパ節だけを切除して病理検査を行いこのセンチネルリンパ節に転移がなければその先へのリンパ節転移は無いと考え、リンパ節郭清を省略します。
転移のない場合にはリンパ節は温存されるため、乳がん手術後の後遺症に悩まされることが無くなります。
腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい)(リンパ節に対する手術)一般的に乳がんの切除と同時に、わきの下のリンパ節を含むわきの下の脂肪組織も切除します。これを「腋窩リンパ節郭清」と呼びます。
腋窩リンパ節郭清は、乳がんの領域でのリンパ節再発を予防するだけでなく、再発の可能性を予測し、術後に薬物療法が必要かどうかを検討する意味で非常に重要となります。
センチネルリンパ節生検で転移が認められた場合は、リンパ節郭清を行ないます。

放射線療法

高いエネルギーのX線(放射線)をがん細胞にねらいを定めて照射し、がん細胞の遺伝子に傷をつけて増殖を抑える局所療法です。
主に手術後、再発を予防させる目的と骨の痛みに転移した病巣の症状を緩和する目的で行ないます。

薬物療法

乳がんの治療に用いられる薬は、化学療法、ホルモン療法と新しい分子標的療法の3種類に大別されます。
薬物療法には薬によって重篤度は異なりますが、副作用が予想されます。副作用は患者さまそれぞれによって個人差があります。

乳がんの手術には次のような術式があります。

薬物療法乳がんの治療に用いられる薬は、化学療法、ホルモン療法と新しい分子標的療法の3種類に大別されます。
薬物療法には薬によって重篤度は異なりますが、副作用が予想されます。副作用は患者さまそれぞれによって個人差があります。
化学療法(抗がん剤)化学療法は血液やリンパ管を通して全身に散らばってしまった可能性のある目に見えないがん細胞を、薬で攻撃する全身治療です。
また、進行・転移・再発乳がんに対する延命、症状緩和を目的とする治療でもあります。
抗がん剤は、がん細胞に作用してがん細胞の増殖を抑え、死滅させる薬剤です。
投与方法には、直接血管内に抗がん剤を投与する点滴による静脈注射と錠剤の飲み薬がありますが、どちらの薬品も血液とともに全身の細胞に運ばれ、目に見えない大きさのがん細胞を治療することができます。
抗がん剤は細胞分裂のいろいろな段階に働きかけてがん細胞を死滅させる効果があり、乳がんは比較的化学療法に反応しやすいがんとされています。
しかし、化学療法はがん細胞を死滅させる一方で、がん細胞以外の骨髄細胞、消化管の粘膜細胞、毛根細胞などの正常の細胞にも作用し、白血球、血小板の減少、吐き気や食欲低下、脱毛などの副作用が現れます。
副作用はありますが乳がんは比較的抗がん剤が効きやすいがんなので、医師と相談しご自身の治療方針を検討してください。
ホルモン療法ホルモン療法は血液やリンパ管を通して全身に散らばってしまった可能性のある、目に見えないがん細胞が増えるのを抑え、再発・転移を予防する全身治療です。
乳がんの中には、女性ホルモン(エストロゲン)の刺激ががんの増殖・分裂の影響を受けて促進される性質を持ったものがあります。
このエストロゲンが、乳がん細胞の中にあるエストロゲンレセプター(ER=エストロゲン受容体)と結びつき、乳がんの増殖を促します。
手術で切除した乳がん組織中のホルモン受容体を検査することにより、女性ホルモンに影響されやすい乳がんか、そうでない乳がんかある程度判明します。
従って、影響されやすい乳がん、「ホルモン依存性の乳がん」の場合、ホルモン療法の効果が期待できます。
ホルモン療法には、抗エストロゲン剤、選択的アロマターゼ阻害剤、黄体ホルモン分泌刺激ホルモン抑制剤などがあります。
抗エストロゲン剤は女性ホルモンのエストロゲン受容体への結合を阻害します。
選択的アロマターゼ阻害剤は、閉経後、脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモンが分泌し、副腎を刺激します。
この刺激によって副腎からは、アンドロゲン(男性ホルモン)が分泌され、これが脂肪細胞にあるアロマターゼと結合してエストロゲンを作ります。
アンドロゲンより先にアロマターゼと結合し、エストロゲンの産生を抑えるのがアロマターゼ阻害剤です。
黄体ホルモン分泌刺激ホルモン抑制剤は閉経前に於いて使用する薬剤で、卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑える作用があります。
ホルモン療法の副作用は一般的に軽いと言われていますが、治療によっては更年期障害のような症状や子宮内膜がんの発生リスクがありますが、子宮内膜がんの発生する率は極わずかで、乳がんの再発率を抑える効果の方が圧倒的に大きいという結果が出ています。
新しい分子標的療法乳がんのうち20~30%は、乳がん細胞の表面にHER2タンパクと呼ばれるタンパク質をたくさん持っており、このHER2タンパクは乳がんの増殖に関与していると考えられています。
最近このHER2をねらい撃ちした治療法(分子標的療法)が開発され、乳がん治療を大きく変えました。
ハーセプチン治療はHER2タンパク、あるいはHER2遺伝子を過剰に持っている乳がんにのみ効果が期待されます。

乳房再建術

川越三井病院では乳腺外科医と形成外科医が協力のもと乳房再建術を行っています。

乳房再建は必ずしも行わなければならない治療ではありません。
ただ、乳房を全摘された患者さんの中には、温泉に行きづらくなった、下着に困る、などと悩まれている方もいらっしゃいます。
乳房を再建することで、少しでも悩みが軽減できるかもしれません。
まずはお気軽にご相談ください。患者さま、お一人おひとりに適したタイミング、術式をご提案いたします。
じっくり考えた上で、再建する・しないを検討していきましょう。(ときには勢いも重要です。)